診療情報
認知症と歯科 正しい入れ歯で食事を楽しむ
Aさんは、認知症になった70歳代の終わりから総入れ歯を使うようになりましたが、ここ数年、着けるのを嫌がり、食事に不自由していました。
肉料理はひき肉に、野菜はくたくたのスープに、果物はジュースに・・・。食べ終わるまで3時間近くかかることもありました。
歯科医師のHさんは初めての診察で、Aさんに口を開けてもらい、総入れ歯をはめてみましたが上はすぐに落ち、下も安定しません。修理は困難と判断し、作り直しました。
新しい総入れ歯では、たくあんをかじることもできます。奥様は、「食事の時間も短くなり、生き生きとしてます。いつか好物のカツサンドも食べてほしい」と喜んでいます。
認知症の人が、入れ歯を受け入れ、使いこなすのは容易ではありません。紛失することもありますし、手入れは周囲の手助けが必要です。痛みや不快感を伝えられず、合わないまま放置されてしまうこともあります。型どりで必要な口の開け閉め嚙み合わせチェックを嫌がるケースも珍しくありません。
入れ歯の使用が認知症の予防につながることを示唆するデータもあります。神奈川歯科大は12年、高齢者4425人を対象とした研究を報告しました。各自の歯の本数を調べ、4年後の状態を確認すると、歯がほとんどないのに入れ歯を使っていなかった人は、20本以上あった人に比べ、認知症の発症リスクが1.9倍でした。一方、歯がほとんどなくても、入れ歯を着けていた人は1.1倍に抑えられました。
認知症でも、そうでなくてもぴったり合う入れ歯を着けることは大切です。Hさんは「認知症が進行するほど型どりが難しくなる。入れ歯を作る時期は、早いに越したことはありません」と話しています。
引用:読売新聞 2023.3月29日刊より