診療情報
高齢者に多い肺炎 口腔ケア、予防接種を
日本人の死因でがん、心疾患(心臓病)に次いで3番目に多い肺炎。そのきっかけにもなる風邪やインフルエンザが流行するシーズンになってきた。肺炎は特に高齢者がかかる率が高く、介護状態に陥る大きな原因ともされる。半面、本人や周囲の心掛けで、比較的容易にリスクを抑えることも可能な病だ。そのポイントは-。 (白鳥龍也)
厚生労働省の人口動態統計によると、二〇一五年に肺炎で亡くなったのは十二万一千人で、死亡総数に占める割合は9・4%。一九八〇年代以降、高齢者の増加に伴って死亡者も増え、一一年から脳血管疾患(脳卒中)を抜き死因の三位となっている。
肺炎は、肺炎球菌などの細菌、ウイルスが肺に入り込んで起こす炎症のこと。高齢になったり、インフルエンザにかかったりして体の抵抗力が弱まっているときにかかりやすい。自然に病原体が気管に入ってしまうケースのほか、高齢者の場合は、食べ物や唾液が誤って気管に入り、口の中の細菌やウイルスが肺に運ばれて起きる誤嚥(ごえん)性肺炎が非常に多い。
高齢者の肺炎治療の専門医、寺本信嗣(しんじ)さん(55)=和光駅前クリニック(埼玉県和光市)=は、「肺炎が死因の三位になった理由もそこにある」と指摘する。
高齢者が肺炎になると、食事ができなくなって急速に体力が低下し、のみ込む力も弱まる。そうなると、誤嚥を起こしてまた肺炎にかかる、といった負の連鎖に陥り、寿命を縮めたり深刻な介護状態になったりしやすいという。
肺炎の罹患(りかん)率は、六十五~七十四歳でそれ以下の世代の約五倍、七十五歳以上で十倍にもなる。
高齢者の肺炎予防は、適切な運動と栄養管理により、心身が衰弱した状態(フレイル)を防ぐこと、衛生的な環境を保ってインフルエンザなど感染症を予防するといったことが重要だが、即効性があるのが、口の中を清潔にする口腔(こうくう)ケアとワクチンの予防接種だ。
口腔ケアを徹底すれば、唾液の分泌が活発になり誤嚥性肺炎を起こす細菌の繁殖が抑えられるとともに、歯の健康を保つことができる。食事をきちんとかんで食べることにもつながる。
一方の予防接種は、肺炎の原因菌で最も多い肺炎球菌のワクチンについて、市区町村が六十五歳から五歳間隔の年齢に達する住民を対象に、一八年度まで時限付きで助成措置を設けており、接種を呼び掛けている。
「介護の原因」低い認識度
米製薬大手のファイザー日本法人(東京都)が九~十月、六十五歳以上の親世代と同年代の親を持つ子世代合わせて九千四百人にインターネットで行った「介護予防と肺炎予防に関する意識調査」(複数回答)では、両世代とも肺炎の危険性に対する認識が低い様子が分かった。
「介護の原因につながると思うものは」の問いに対し親、子世代ともトップは認知症、次は衰弱で、肺炎は最低だった=グラフ参照。介護予防のため「行っていること」(親世代)、「有効だと思うこと」(子世代)でも「肺炎球菌ワクチンなどの予防接種」は親世代で27%、子世代で18%にとどまった。