診療情報
ピンピン長寿のヒケツ
いつまでも元気で長生き、それはだれしも願うこと!
そんな”長寿”に関わる専門家にお話を伺います。
唾液、ちゃんと出ていますか?
口の中の健康と長寿とは、密接につながっているそうです。鶴見大学歯学部教授の斎藤一郎さんは、「健康を保つために、唾液が重要な役割を果たしている」と指摘します。今月と来月の2回に分け、口の中の健康と長寿にまつわる斎藤さんのお話をお届けします。
口の中の健康の大敵は、「歯周病」です。歯周病は、45歳以上の、歯を失う原因の第1位です。歯周組織の総面積は手のひら大といわれますから、歯周病があると、かなり広い範囲が炎症を起こしていることになります。
実は、炎症のある歯周組織には細菌がたくさんすみついていて、それらが体に悪影響を及ぼします。
例えば、高齢者の死因ともなる誤嚥性肺炎。食べ物が誤って気管から肺に入ってしまい、食べ物についた口の中の細菌などにより引き起こされる肺炎です。
それ以外にも口の中の細菌は、動脈硬化を進めたり、血糖値のコントロールを難しくしたり、認知機能の低下を招く原因にもなります。
そこで、そうならないための対策についてお話しましょう。
まず当然のことですが、「歯磨き」です。1日3回食後にしっかり磨くのが理想ですが、難しければ、3回のうち1回、寝る前だけでも入念に磨くこと。歯2本ずつに対して小刻みに歯ブラシを動かし、くまなく磨けば最低5分はかかるでしょう。練り歯磨き粉などは、最初から使うと泡が出て磨きづらいので、使わずに磨くことをお勧めします。最後の仕上げに少し使えば、爽快感が残っていいでしょう。電動歯ブラシなどもありますが、手動で十分です。
さらに1年に1~2回は、症状がなくても歯科を受診し、歯石などを取ってもらえば、歯周病は予防できます。
もう一つ大事な点は、「唾液がしっかりと出る」ようにすることです。
通常、人は1日1~1.5Lの唾液が出て、歯周病などによって発生する口の中の細菌を退治してくれます。しかも、食べ物を飲み込みやすくする潤滑油にもなるため、誤嚥性肺炎が起こりにくくなります。付け加えれば、唾液に含まれるNGFという物質が脳神経の機能を維持し、脳の老化を防ぐ可能性もあります。
もし、「口の渇きが3か月間以上続いている」「顎の下が繰り返し、あるいはいつも腫れている」「乾いた食べ物を飲み込む際、しばしば水を飲む」「口の中がネバネバする」「食べ物を飲み込みにくい」「口臭がある」などの症状があったら、何らかの原因で唾液が減少するドライマウスかもしれません。
ドライマウスの原因としては、目や口が渇くシューグレン症候群という病気がありますが、それ以外にも口の渇きを引き起こす原因があります。
一つはストレス。配偶者と死別した寂しさ、家で居場所がないといった孤独感など、ストレスに長い間さらされると、唾液が出にくくなるケースがあります。
二つ目は薬の副作用。抗不安薬や抗うつ薬のように、神経に作用する薬が原因になることがあります。
三つ目は、噛む筋力の低下です。唾液を分泌する唾液腺は、筋肉と結びついていて、噛む筋肉を動かすことで唾液の分泌を促すことができるのです。日頃から柔らかいものばかりの食生活を送っていると、噛む筋力が衰えて唾液の分泌量も減少していきます。食べ物の種類だけでなく、人と話す機会が少ない、声を出して笑っていないといった生活を送っている場合も、口の周りの筋力は衰えてしまいます。
そして、糖尿病や腎不全の影響で口の渇きに悩まされることもあります。
唾液と健康の関わりが、おわかりいただけたでしょうか。次回は、唾液を増やす運動メニューを紹介します。
斎藤一郎(さいとう・いちろう)
1954年東京都出身。鶴見大学歯学部教授。専門は唾液腺の機能や病態の形成機序ならびに再生機構。
引用:きょうの健康 18.9月